伝統工芸とモダンデザインの融合
青森特産のブナの木を1 ㎜程度の薄さにスライスし、テープ状にカットしたものを巻き重ねた状態から押し出し成形していく「ブナコ」の技術が開発されたのは、今から50年余り前のこと。昭和38年に倉田現社長の祖父がブナコ漆器製造㈱を設立し、半世紀。今や国内外から高い評価を得る、誇るべき青森の工芸品です。 「この50年間で積み重ねてきた、誰も気が付かないようなところにも独自のノウハウを見出し、積み重ねてきた。」という倉田社長。平成4 年に社長に就任してからは、これまで手掛けてきた食器のみならず、新たに照明やインテリア製品も生み出し、グッドデザイン賞やイギリスのHomes&Gardens Classic Design Award などの数々のデザイン賞を獲得。また、木をくり抜いて作るよりも、材料の使用量や廃材の量が格段に抑えられるエコ製法も注目を浴びています。
ブナコがエンクロージャーに
造形の柔軟性はハンドメイドならでは。その利点を生かし、平成10年から開発を始めたランプシェードや、特注品のオーダーを受注していく中で、職人の技も格段に上がっていき、さらなる付加価値がついた商品が誕生することに―。 「ブナコでスピーカーを作ったら、絶対にいい音が出ると提言してくれた方がいて、半信半疑で言われた通りの形でつくってみたら確かに音が良かったんです。」後方に向かうにつれて滑らかにすぼまっていく形状が音の響きを良くし、内部に微妙な段差が連続していることで、音の雑味が取り除かれ、柔らかで優しい音を作り出すという理論。意外なところで、独自の製法が活きることを知った倉田社長。「ポテンシャルの高さを感じ、本腰を入れて開発に踏み切ることにしました。」 他に類を見ない技術を使ったスピーカー開発。元気チャレンジへ申請し、採択されるやいなや、音楽やデザインの専門家を含む7名で開発チームを発足。デザインだけではなく、音質のレベルも重要となる取り組みだけに、スピーカーの形状やサイズの検証、スピーカーユニットの選定など、段階を踏まえてプロジェクトは進んでいきました。「塗装仕様が違っただけでも音に影響が出たのには驚きでした。」いくつかのパータンを試作し、聴き比べて絞り込んでいく工程を繰り返し、試作品の数は25 台にも及んだとか。こうして1 年後、まるでそれ自体が楽器のような様相のブナコスピーカー「Faggio (ファッジョ)」が完成したのです。
商品完成はゴールではない
「いいモノだから売れるということはないんです。モノが勝手に売れていくなんて有り得ない。“売れている”のではなく、“売っている”んです。」常に販路開拓を頭に入れ、自らが行動を起こして市場を拡大してきた倉田社長。今回のスピーカー開発においても、「好きなモノを作っているわけではないんです。あくまでビジネス。市場が広がらなければ意味がない。」と、世界最大級の見本市「メゾン・エ・オブジェ」の初日に「パリと日本で同時発売」と決め、その開催日程に合わせて開発が進められたそうです。来場者数約8万5000人とも言われる世界の大舞台で、華々しいデビューを飾った「Faggio (ファッジョ)」。インテリア業界はもちろんのこと、音楽業界からも高く評価され、両専門雑誌がこぞって取り上げました。 「いかに市場にのせるかが重要。とは言っても、やみくもに数勝負をするのではなく、付加価値をつけてブランディングする。」というのが倉田社長流です。そしてもう一つ、「ハンドメイドであっても工業製品でなくてはダメ。ハンドメイドであっても需要に応じて量を生産できなければダメ。」というのが持論。生産の安定性も、市場を獲得する重要な要素と考えています。 これまで、一流ホテルでの商品採用や、有名ショップとのコラボレーション、特注品への対応などを経て、「作り手も技術に対するプライドを持ち、商品に向き合い、またいいモノを作ろうとする。」という好循環を生んできました。そういった意味では、どこまで行ってもゴールはないのかもしれません。これからも、揺るぎない信念と確かな技 術で、青森のブナコは、「日本のモノづくり」を牽引し続けます。
- ■社 名 ブナコ漆器製造株式会社
- ■代表者 代表取締役 倉田 昌直
- ■設立年 昭和38年
- ■所在地 弘前市豊原1-5-4
- ■電 話 0172-34-8715
- ■従業員数 25 名
- ■資本金 2,100 万円
- ■採択年度 平成23 年度上期
- ■事業内容 ブナコ生産技術を活用したオーディオ用オリジナル高品位スピーカー商品開発事業