「南部町から菊をなくしてはいけない」
気品あふれる香りと独特の甘み、シャキシャキとした歯ざわりが特徴の食用菊・阿房宮(あぼうきゅう)は、江戸時代に南部町に持ち込まれたと言われています。10月から11月にかけて、町内44,400坪の畑が鮮やかな黄色に彩られ、収穫後は主に干し菊として市場に出回ります。歴史のある阿房宮栽培ですが、近年は菊農家の数が減少。地域振興に取り組む南部町商工会・経営指導員の坂本さんは動き出しました。「南部町から菊をなくすわけにはいかないと思い、農家と委員会を立ち上げ対策を練りました。」平成21年のことです。阿房宮をブランド化することで需要を増やそうと、阿房宮を使った新商品の開発に乗り出し、県内の試験場や大学に協力を仰ぎながら試作品づくりに邁進しました。
「最初に作ったのは、菊をフリーズドライにしたかやく入りのカップうどんです。麺にも菊を練りこみ、味も申し分ない。でも原価がかかりすぎて販売するまでには至りませんでした。」そんな窮地を救ってくれたのは、製造を依頼していた八戸東洋㈱からのアドバイスでした。
―フリーズドライにした菊だけで商品化したらどうか?
「なるほど、と思いました。現在出まわっている干し菊は、一度お湯で湯がいてから調理しなければならないし、製造から時間がたつと変色してしまう。フリーズドライにしたものなら、そのままみそ汁やお鍋に入れるだけで良いという手軽さがあります。賞味期限が長いというのも魅力です。」栄養成分や風味の変化が少なく、お湯で戻せるフリーズドライ製法の利点を生かせば、いわゆる“かやく”だけでも、十分に商品価値があると気づいたのです。
手軽に菊を味わえる商品「菊づくし」は、こうして誕生しました。
メインはお土産品としての活用
3年掛けて出来上がった商品を手に、いよいよ販売の新境地へ。「そんな時にこの元気チャレンジ事業を知りました。商品のPR や販路開拓に使える助成金があるのは心強かったです。」採択後は、助成金をフル活用して首都圏の物産展や商談会に参加。「必ず試食をしてもらうようにしていました。説明をする前に、まずは食べてみてという感じで。」一食・・は百聞にしかず―、舌が肥えているバイヤーの納得した表情を見て、「販路さえ確保できれば、絶対に売れる」という、これまで持っていた商品に対する自信が確信に変わりました。
県内の主要観光施設や道の駅にも積極的に営業に出掛け、店頭においてくれる店舗が着実に増えてきています。「この商品は保存性に優れ、軽いということもありお土産にも最適なんです。」味わいはもちろんのこと、商品スペックも認められ、初年度は生産した18,000個が半年で完売。早くも40,000個分の菊を確保したとか。「フランス料理店からも注文をいただきました。黄色の食品がフランス料理界にはないそうで、重宝しているみたいです。」と、意外な方面からも嬉しいオファーが続いています。
事業完結までの道のり
普段は、地域の中小企業者の経営施策を指導する立場の坂本さん。「実際にやる側になると、なかなか難しいですね(笑)。」そうは言うものの、その目は意欲に満ち溢れていました。「今後は大口の取引先を見つけるつもりです。需要があれば、農家も契約栽培ができるようになり、買取り価格の設定を一定にすることが可能です。栽培の段階でも雇用が期待できるようになりますし、ゆくゆくは組合を立ち上げて販売事業を展開する予定ですので、そこでも雇用が見込めます。これで委員会の目標も達成です。」歴史と伝統ある菊の生産拡充を図るとともに、農商がマッチン
グした事業展開で雇用増大を目指します。
「これをきっかけに、地域中小企業者の菊を活用した様々な新商品開発につなげていきたいです。」
企業プロフィール
- ■商工会名 南部町商工会
- ■代表者 会長 山田 賢司
- ■設立年 平成18 年(旧南部町・名川町・福地村の商工会が合併)
- ■所在地 三戸郡南部町斗賀上平13-32
- ■電話 0178-75-1133
- ■従業員数 10 名
- ■採択年度 平成24年度上期
- ■事業内容 青森県南部町特産(食用菊)を活用した新商品「菊づくし」販路開拓・PR事業