新商品にかける熱き思い
「この事業を通して様々な分野の方々と関わっていくうちに、農業のこの先を真剣に考えるようになりました。」建設業から参入し結果を出しながらも、従来のスタイルでは農業の未来はないと考えるようになったという。「この歳になって、農業について真剣に考えられるようになったのが一番の成果かな。」と笑う阿部社長。利益追求ではなく、若者が農業に対して夢や明るい未来を思い描けるビジネスモデルにすること―。それが本事業の継続意義と考えている。
(株)阿部工務店が、弘前大学地域共同研究センター、青森県産業技術センターとの共同研究により果実酢を開発。第一弾となるメロン酢を製品化したのち、トマト酢、スイカ酢の開発にも成功し、「走れメロ酢」シリーズとして売り出している。 地場産の素材を活用した同商品は、伝統的な静置発酵法で製造されている。「揺れに弱いため、熟成期間に地震が起きるとそれだけで失敗でした。」と阿部社長。 当時頻発していた地震がネックだったものの、一番のこだわりは次の工程にある。「酢酸菌を培養させ、発酵した果汁をきれいにろ過したのちに高温で殺菌するのが通常の製造工程ですが、メロンの味を残すため、低温殺菌にこだわりました。」と、素材が活きる果実酢を目指した。 12月から4月までの生産期間に合わせ、同社のオンラインショップで販売している。いずれも、ドレッシング代わりにしたりサワードリンクにしたり、毎日の生活に取り入れやすいと好評だ。「購入していただいたお客様からの意見を取り入れて、現在も商品のブラッシュアップを続けています。」購入者にアンケートを実施し、感想を反映させながら、商品の改良を重ねているという。
つがる市で温泉施設を経営している同社は、温泉熱を利用してメロンのハウス栽培に取り組んでいる。 「冬の農業として一定の成果を得ている中、傷がついたり規格外のいわゆるB級品の活用法を模索していました。」価格が下がるのはやむを得ない下位等級品。 「低価格で販売するのではなく、これらを利用した2次産品の開発と6次産業化を目指し、当時ブームだった果実酢の開発に取り組むことに。せっかくなら革新的な商品をということで、素材が見える、味わえる製法にこだわることにしました。」 平成22年、健康ブームで食酢が注目を浴びる中、産学官連携による本事業がスタートした。
公的機関の事業に積極的に参加してきたことで、助成事業についての情報もすんなり入ってきたという。 「元気チャレンジは、商品開発のための研究にかかる旅費にも使えるのがいいですよね。」 当時、低温殺菌の技術を持つ企業が県内になかったため、助成金を活用して、首都圏をはじめ北海道、四国や九州の企業に自ら出向き、従業員とともにそのノウハウを習得した。 「助成金だけでなく、21あおもり産業総合支援センターからはあらゆる人や企業を紹介していただき、たくさんの出会いの中から学ぶことが出来た。今思えば、それが事業成功のポイントだったかもしれません。」多くの人とつながりを持てたことが、事業の推進を図るだけでなく、会社の財産になっていると感じている。
農業への異業種参入に始まり、2次産品開発、6次産業化とチャレンジを続けてきた同社。今後は、「熟成メロン酢」の開発を計画中だ。年数をかけて熟成させることで、まろやかさが増すのだとか。「地元の津軽金山焼とのコラボもおもしろいかなと考えています。」と、さらなるマッチングで付加価値が高まりそうだ。 今後の量産体制と販路開拓について訊いたところ、「量産するつもりはないんです。」と、意外な返答が。「昨今進んでいる若者の農業離れ。 メロン作りだけで終わるのではなく、生産から加工、販売とバージョンアップしていくことで、人と接する機会や、勉強する機会が増える。若い人たちに、そういったプロセスに夢を感じて、農業に興味をもってもらいたい。そんなきっかけになる商品になってくれたらと思っています。」と話す。利益の追求よりも、農業を見直すきかっけにして欲しいと、要望があれば製造ノウハウを開示するつもりだという。 モノづくりに続く同社のチャレンジは、次世代の人づくりかもしれない。
企業プロフィール
- ■企業名株式会社阿部工務店
- ■所在地五所川原市雛田198-1
- ■TEL0173-34-8836
- ■代表者名阿部 祐一
- ■従業員数17名
- ■資本金3,775万
- ■採択年度平成22年下期