新技術にかける熱き思い
先代から事業を引き継いで7年。「新たなアクションを起こさないことが経営リスクを高めていると危惧していた。」という佐々木社長。今や「リサイクルのイノベーションを起こし、研究開発部門を持つ会社に成長していきたい。」と意気込む。新たなチャレンジは自らを変化させるきっかけにもなったようだ。
アルミより軽く鉄よりも強い素材として知られる「炭素繊維」。釣り竿やゴルフクラブのシャフト、テニスラケットといった身近なものから、航空機などの素材にも使われている。「この炭素繊維は、世界に対し日本がリードしている数少ない素材です。」と話すのは、八戸市の建設業・佐々木興業の佐々木社長だ。「軽くて強い上に耐熱性、導電性、電磁波シールド性にも優れているため、今後は鉄やアルミに代わりさらなる利用が見込まれています。」と続ける。アルミや鉄に比べ、コストが高い炭素繊維。そこでコストが抑えられるリサイクル炭素繊維の生産に目を向けた同社は、平成27年から技術開発に乗り出している。
石油や石炭ピッチから作られる炭素繊維と樹脂を混ぜ合わせた複合材料「炭素繊維強化プラスチック（ＣＦＲＰ）」を破砕して、加熱処理を施し炭素繊維を取り出す技術に加えて、取り出した炭素繊維を不織布(カーボンシート)に加工するまでの生産技術を確立し大きな成果を上げているが、「炭素繊維の特性を最大限に発揮して、いかに低コストで生産するかが肝。まだまだ研究途中。」と、今の現状を説明する。
炭素繊維のリサイクル技術は大手メーカーでもまだ確立されていない分野。全国に先駆けて、知的資産ともなる研究が続けられている。
プラントを有する県内企業から、解体・建設業務を請負う同社。「産業構造の変化に伴い、下請け体質からの脱却の必要性を感じていました。」と言う佐々木社長。現状を打開するため、建設業で培った破砕処理技術の強みを活かせる新事業を模索していた時、炭素繊維の研究を進めている八戸工業高等専門学校の杉山和夫教授に出会い、最先端素材を知ることとなった。
畑違いではあるものの、独自の情報収集と調査により炭素繊維に将来性を感じた佐々木社長。リサイクルを軸とした事業構想を立ち上げ、元気チャレンジを活用して新事業をスタートさせた。
本業とは一線を画し、新たに専任社員1名を雇用。八戸工業高等専門学校及びNPO法人リサイクル材料技術研究所とタッグを組み、技術確立に向けた研究が共同で進められた。
破砕処理の技術には自信があるとはいえ、その後の道のりは未知の世界。「新事業の立ち上げには多少迷いもあった。」という佐々木社長の背中を押したのは、金融機関で偶然に目にした元気チャレンジのチラシ。「新しいチャレンジも必要だと自分を奮い起こし、応募しました。腹が決まったのはプレゼンの時。励ましの言葉を頂いて、自社が取り組もうとしている事業や進むべき方向性に自信を持つことができた。」と、現状維持の考えから一歩踏み出し、自社の将来ビジョンを描き直すきっかけにもなったようだ。
助成金は、原材料の入手や実証実験に要する費用に充当。「原材料は端材といえども、流通量が少ない上に高価な素材。助成金がなければチャレンジできていなかったと思います。」と、金銭面的にも大きな支えになったという。
ＣＦＲＰから炭素繊維を取り出し、カーボンシートを作り上げることに成功した同社だが、「さらにコストを抑えた取り出し技術、量産化技術を追求していかなければ。」と、未だ研究段階であることを強調。現在は三沢市の支援を受け、三沢市新産業創造支援センターに拠点を置き研究を続けている。今後3年を目処に生産性の高いリサイクル技術を確立し、用途開発に進みたい考えだ。
リサイクル炭素繊維という新たな素材の価値を創造し、「最終的には、既存の地域産業と力を合わせて技術を高め合い、大手企業に左右されない体力のある企業の確立を目指したい。」と将来ビジョンを掲げている。
企業プロフィール
- ■企業名有限会社佐々木興業
- ■所在地八戸市江陽2-17-9
- ■TEL0178（45）8715
- ■代表者名佐々木 悦郎
- ■従業員数5名
- ■資本金300万円
- ■採択年度平成27年度上期
